日本の社会保障制度は、高齢化の進展や医療の高度化に伴い、医療費の増加が見込まれており、持続可能性を高めるための制度見直しが不可欠となっています。 この課題に対応するため、これまでの高齢者中心の社会保障から、全世代支援型の社会保障への再構築が急務とされています。改革の基本的な考え方は、世代内、世代間の公平の確保を図りながら、給付と負担のバランスを見直し、能力に応じた全世代での支え合い、相互共助を実現することにあります。
特に、現役世代の保険料負担の納得性を確保し、制度の根幹である「所得の再分配」と公平性を維持しつつ、持続可能な制度を構築することが目標とされています。
高齢者医療制度における重要な改革点の一つが、後期高齢者(75歳以上)の医療費窓口負担割合の見直しです。
現役世代の保険料負担の上昇を抑制する観点から、令和4年10月1日より、後期高齢者のうち一定以上の所得がある方に対して、窓口負担割合が1割から2割に引き上げられました。 この2割負担の対象者は、後期高齢者医療制度の被保険者全体(約1,815万人)の約20%にあたります。
2割負担への変更による影響が大きい外来患者については、施行後3年間(令和7年9月30日まで)、長期頻回受診患者等への配慮措置として、ひと月分の1割負担の場合と比べた負担増を最大でも3,000円に抑える措置が実施されています。
後期高齢者医療費の財源構成は、公費(約5割)、後期高齢者支援金(若年者の保険料、約4割)、高齢者の保険料(約1割)です。後期高齢者医療制度(75歳以上)は、医療費総額(令和7年度予算ベースで20.4兆円)のうち、約9割を現役世代からの支援金と公費で賄う構造となっています。
特に、被用者保険者(健保組合、協会けんぽ)にとって、高齢者医療への拠出負担(前期高齢者納付金と後期高齢者支援金)が義務的経費に占める割合は非常に大きくなっています。
| 健保組合 | 45.0% |
|---|---|
| 協会けんぽ | 33.8% |
現役世代と後期高齢者との間で、医療給付費の負担をより公平に支え合うため、令和6年4月より、後期高齢者負担率の設定方法が見直されました。
具体的には、「後期高齢者一人当たりの保険料」と「現役世代一人当たりの後期高齢者支援金」の伸び率が同じとなるよう見直す仕組みが導入されています。
また、同時に、出産育児一時金の支給費用の一部を、現役世代だけでなく後期高齢者医療制度も支援する仕組みが導入されています。
「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋」(令和5年12月閣議決定)において、医療・介護の3割負担の適切な判断基準設定等が、2028年度までに実施について検討する取組として位置づけられています。 現行の「現役並み所得」の判断基準は平成18年以降見直されておらず、現役世代の収入や社会保険料負担が上昇傾向にあること を踏まえ、以下の観点から見直しが検討されています。
この見直しに際しては、現役世代の負担が増加すること、そして令和4年10月に施行された2割負担導入の施行状況等に留意する必要があるとされています。
高齢化の進展と医療費の増加という構造的な課題に直面し、医療保険制度は世代間の公平を確保しつつ、持続可能性を高めるための抜本的な見直しが進められています。
特に、現役世代の負担割合が高い水準にある中で、後期高齢者の窓口負担の見直しや、財源構造の公平化が実施されました。
社労士としては、これらの制度改正が、被用者保険の財政運営や、従業員(現役世代)の社会保険料負担、さらには高齢層の生活設計に与える影響を正確に把握し、企業や個人への適切なアドバイスに活用していくことが重要です。