トップ 社労士が年末調整を請け負うのはNG?税理士との業務線引きをわかりやすく解説

社労士が年末調整を請け負うのはNG?
税理士との業務線引きをわかりやすく解説

はじめに

最近、税理士が社労士の独占業務を行って懲戒を受けたというニュースが話題になりました。
この件を見て「では、社労士が年末調整を請け負うのは大丈夫なのか?」と疑問を持たれた方も多いのではないでしょうか。
実は、年末調整の業務には「税理士でなければ行えない部分」と「社労士でも対応できる部分」が明確に線引きされています。
今回はその境界線を、法律と実務の両面から整理して解説します。

税理士と社労士の独占業務の違い

まず、両士業の業務範囲を定めた法律を確認しましょう。

● 税理士法(第2条)

税理士は、報酬を得て次の業務を行うことができます。

  • 税務代理(税務署への申告など)
  • 税務書類の作成(源泉徴収票・法定調書など)
  • 税務相談(控除の可否など税務判断を伴う助言)

税理士でない者がこれらを行うことは、税理士法第52条で禁止されています。

● 社会保険労務士法(第2条)

社労士は、報酬を得て以下の業務を行うことができます。

  • 労働・社会保険の申請書類の作成、提出代行
  • 給与計算など人事労務に関する帳簿事務
  • 労務管理に関する相談や指導

つまり、社労士は「労務・社会保険」に関する手続や計算業務を専門としています。

年末調整における線引き

両者の業務の境界は、「税務判断を伴うかどうか」で明確に分かれます。

業務内容 社労士が行えるか 理由・備考
給与計算(月次・賞与含む)
労務管理上の業務
社会保険料の控除額算出
労務関連の算定業務
源泉徴収票の作成・交付
×
税務判断・税額計算を含むため
年末調整による税額再計算
×
税理士法上の税務代理行為に該当
税務署への法定調書提出
×
税理士業務

根拠:両士業団体の「確認書」

平成14年6月6日、日本税理士会連合会(日税連)と全国社会保険労務士会連合会(社労士連合会)は、 「税理士又は税理士法人が行う付随業務の範囲に関する確認書」を取り交わしました。 その中で、次のように明記されています。 「年末調整に関する事務は、税理士法第2条第1項に定める税理士業務に該当し、 社会保険労務士がこれを業として行うことは、税理士法第52条に違反する。」

実務上の対応ポイント

① 社労士が関与できる範囲の明確化

年末調整に関連する業務のうち、社労士が担当できるのはあくまで**「税務判断を伴わない労務関連の処理」**に限られます。 具体的には次のような業務です。

  • 給与・賞与計算(社会保険料や雇用保険料を含む控除額の算定)
  • 年末調整に必要な社員情報(扶養控除申告書・保険料控除証明書など)の収集・確認
  • 社会保険料控除額や保険料証明書の整理
  • 税理士に渡すための年末調整データの整備・チェック

これらは「労務管理」「給与計算事務」の範囲であり、社労士の業務として問題ありません。

② 税理士が担うべき業務の特定

一方で、以下のような業務は税務判断・申告行為に該当し、社労士が報酬を得て行うと違法となるおそれがあります。

  • 所得税額の確定計算(源泉徴収票の金額決定)
  • 控除適用の可否判断(扶養・保険料・住宅ローンなど)
  • 源泉徴収票・法定調書合計表の作成・提出
  • 税務署や自治体への提出代行

これらは税理士が行うべき領域であり、社労士が代行することは税理士法違反のリスクがあります。

③ 税理士との連携フローを設計

実務では、社労士と税理士が役割を分担し連携する体制が最も安全かつ効率的です。

【推奨されるフロー例】

担当者 業務内容
社労士 給与・社会保険料データを整備
社労士→税理士 年末調整用データを引き渡し
税理士 税額計算・源泉徴収票作成・提出を実施
社労士 結果を給与システムへ反映、従業員へのフィードバック支援

このように業務を分けることで、法令遵守を保ちながら企業の負担も軽減できます。

まとめ

年末調整は「税務」と「労務」の境界にある複雑な業務です。 社労士が独自に税務判断を行うことは法律上のリスクを伴いますが、労務分野での準備・サポートは大いに価値があります。
今後もロウカレでは、こうした士業間の線引きや実務上の注意点をわかりやすくお伝えしていきます。