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「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」に伴い、年金機構にお...
「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」に伴い、年金機構における年金請求の審査に必要な期間が延びる可能性があります。
各地方公共団体において順次行われるシステム更改(地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化(デジタル庁ホームページ)(外部リンク))等に伴い、年金請求書等の審査に必要な住民票情報・所得情報の確認に時間を要する場合があり、この場合、処理期間について通常より1~2週間程度要することが考えられる旨年金機構から発表されております。以下、その背景等について解説します。
背景と目的
- これまで、各自治体はそれぞれ独自に情報システムを構築・運用してきたため、たとえ同じ業務(住民基本台帳・年金・国保・介護保険など)であっても、システムがバラバラ。これにより、
- システム維持管理のコストや手間が自治体ごとに膨大。
- 法令変更時や制度改正時のシステム改修が各自治体で個別対応になり、多大な人的負担・財政負担。
- 結果として、住民サービスの改善や全国での迅速な制度統一・オンライン化が進みにくい、という構造的な課題があった。
- 少子高齢化・人口減少による労働力不足が進む中、従来のように各自治体が個別に“手作り”でシステムを管理し続けることは持続性に疑問があるため、国と地方が協力して「デジタル技術で効率化・標準化」を進めることが重要とされた。
法律と制度 ― どう標準化するか
- 2021年(令和3年)に、地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(通称「標準化法」)が成立・施行されました。
- この法律では、一定の「標準化対象事務」を定め、各自治体が使う情報システムは“標準化基準”に適合した「標準準拠システム」であることを原則と定めています。
- 対象となる事務は、福祉・年金・健康保険・税・戸籍・住民基本台帳・子育て支援など、住民にとって基本かつ共通性の高い 20 種目。たとえば、国民年金、国民健康保険、介護保険、生活保護、児童手当、住民基本台帳、固定資産税、印鑑登録など。
- 各分野を管轄する省庁が、それぞれ標準仕様書(機能要件・帳票要件など)を定めており、たとえば年金業務、健康管理、税務、福祉、子育て支援など、それぞれに対応する標準仕様があります。
システム統一とクラウド化の仕組み
- 標準準拠システムは、単に“同じ仕様にそろえる”だけでなく、全国共通で使えるシステムとして、共通クラウド環境であるガバメントクラウド に移行することが前提とされています。これにより、各自治体が自前でサーバやミドルウェアを運用する必要をなくす。
- 国による共通基盤・仕様の整備だけでなく、各自治体の移行を支援するため、移行支援体制(「標準化リエゾン」や「事業者協議会」など)も整備しています。
- 標準準拠システムへの移行完了期限として、原則「2025年度(令和7年度)」が想定されてきました。
社労士にとっての関係性と影響 ― なぜ注目すべきか
社労士業務(社会保険、年金、健康保険、労働保険関連手続、福祉・介護保険関連手続など)と、上記の標準化・DXは非常に親和性が高く、優先的に注目すべきテーマです。
- 手続のデジタル化・効率化
たとえば年金、国保、介護保険、健康管理、福祉関連などが標準対象/標準仕様に含まれているため、これらの分野でオンライン申請や情報連携が全国標準に基づいて進む可能性が高い。社労士として、クライアントの手続代行や相談の際、自治体ごとの “バラツキ・複雑さ” が減ることは大きなメリット。
- 制度改正対応の迅速化
制度が改定された場合でも、各自治体が個別に改修するのではなく、国レベルで標準仕様を改定 → 各自治体での改修が比較的スムーズ、という流れが期待される。
- 全国共通の情報基盤による可視性向上
全国の自治体が同一仕様・クラウド基盤を使うことで、統一されたデータ形式/手続フローになる可能性。これにより、異なる自治体にまたがるケース(転居、引越し、転職、別の自治体での年金/保険加入など)の手続がスムーズになる可能性がある。
- コスト削減・人的リソース不足対応
自治体のシステム運用負担の軽減により、職員リソースを住民対応等に充てやすくなり、全体として行政サービスの品質・スピードが向上する可能性。
留意点・懸念点 ― ただし「完了」はまだ
- 全国すべての自治体・システムで標準準拠化・ガバメントクラウド移行が完了しているわけではありません。たとえば “移行困難” とみなされるシステム(メインフレーム運用、個別開発、ベンダー非対応など)は「特定移行支援システム」に指定され、移行期限の延長などが認められており、2025年7月時点で 全国の約36% の自治体 がこの状態にある、との報告があります。
- 標準化が進む一方で、実際の運用開始・移行スケジュールは自治体によってバラつきがあるため、「いつ・どこが対応済み/未対応か」を個別に確認する必要があります。
- また、システム標準化やクラウド移行はICT・システム基盤の整備であって、実務上の制度変更(法律・運用ルール・届出要件など)まで一律に変わるわけではないため、「書類上の手続き内容や要件」は依然として自治体ごとに差異がある可能性があります。
まとめ
「自治体DX=基幹業務システムの統一・標準化」は、単なるICT投資ではなく、制度の全国共通化、行政手続の効率化、住民サービスの質向上を目指す大きな構造改革です。 社労士としては、社会保険・年金・健康保険・介護保険・福祉・子育て支援など、手続代行や助言を行う分野がまさに“標準化対象事務”と合致しており、この流れを理解・活用することで、クライアントに対する支援の質・効率を大きく向上させることが期待されます。
参考リンク