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高額療養費制度が変わる? 見直しの背景と議論のポイントを解説
~第6回「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」資料から~

日本の医療保険制度が抱える課題

日本の医療保険制度は、世界に誇るべき国民皆保険を実現してきましたが、人口構造の変化、医療の高度化、物価や賃金の上昇、そして現役世代の保険料負担の抑制という喫緊の課題に直面しています。

制度の持続可能性を確保し、全世代型社会保障を構築するため、現在、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会および高額療養費制度の在り方に関する専門委員会において、高額療養費制度を含む医療保険制度全体の抜本的な改革議論が進められています。この度第6回「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」資料が公表されましたので、その内容を簡潔にご紹介します。

高額療養費制度を取り巻く現状

日本の国民皆保険制度は、世界に誇るべき社会基盤として私たちの安心を支えてきました。そして高額療養費制度は、患者にとって経済的な破綻を防ぐ重要なセーフティネットとして位置づけられています。しかしながら、医療費は高齢化の進展や医療の高度化によって増大しており、特に高額レセプト(1,000万円以上)の件数は大幅に増加しています(全制度計で2018年度対比4.3倍、健保組合では2015年度以降約6.4倍)。高額薬剤の登場も、高額療養費の支給額増加の主要因となっています。

こうした背景から、制度を将来にわたって維持し、かつ、現役世代の保険料負担への配慮を行うため、高額療養費制度の自己負担の在り方を含めた見直しが不可避であるという意見が多く示されており、部会及び専門委員会で議論が続けられています。

注目すべき今後の改正の方向性(主要な議論の論点)

今後の高額療養費制度の検討は、主に以下の3つの論点を中心に議論が深められています。

1. 年齢にかかわらない負担能力に応じた負担の実現

全世代型社会保障の考え方に基づき、負担能力のある方に公平に負担を求める方向性が強調されています。

  • 高齢者の外来特例の見直し
    70歳以上の高齢者に設けられている外来特例(個人ごとの月額上限18,000円または8,000円、年14.4万円)は、高齢者の受診頻度が高いことなどを考慮して導入されましたが、現役世代、特に子育て世代が厳しい経済環境の中で高額な治療を受けられない現状があることから、公平性の観点で見直しが必要と指摘されています。
  • 所得区分の細分化
    現行制度において大括りとなっている所得区分(特に年収約370万円〜約770万円の層など)について、負担能力に応じたきめ細かい制度設計を行う観点から、低所得者に配慮しつつも細分化が必要ではないかという意見があります。
  • 金融所得・資産の勘案
    負担能力という面から、所得のみならず資産も勘案する必要があるという意見も出ています。

2. 増大する医療費への対応と自己負担限度額の見直し

高齢化や医療の高度化に伴い増大する医療費に対応するため、制度の持続可能性を確保し、現役世代の保険料負担の抑制を図るため、自己負担限度額について一定の見直しが必要ではないかという意見があります。

ただし、見直しを行う場合でも、必要な医療へのアクセスが阻害されないよう、具体的なモデルケースやデータを踏まえて丁寧に議論を進め、国民の理解を得ていくことが重要視されています。

3. セーフティネット機能の確保と長期療養者への配慮

高額療養費制度の根幹であるセーフティネット機能は維持されるべきですが、見直しによって特に負担が過重となる層への配慮が求められています。

  • 長期療養者・低所得者への配慮
    仮に自己負担限度額を見直す場合であっても、長期にわたって継続して治療を受けられる方々や所得が低い方々の負担が過重なものとならないよう配慮すべきという意見が多く寄せられています。
  • 多数回該当制度の課題と年間上限の議論
    現行の多数回該当制度(直近12か月間に高額療養費が4回以上支給された場合、4か月目から自己負担限度額が軽減される仕組み)だけでは、難病やがんなどの慢性疾患で長期間療養を必要とする方への配慮が弱いのではないかという指摘があり、年間上限を設けるなどの配慮が必要ではないかという議論も過去に提起されています。

まとめ

高額療養費制度の見直しは、「世代間の公平性」「負担能力に応じた負担」70歳以上の高齢者に適用されている「外来特例」の見直しが最優先課題として位置づけられており、この点を中心に制度改革が進められる可能性が極めて高いと結論付けられます。同時に、所得区分の細分化によって高所得者層の負担が強化される一方で、長期療養者や低所得者への配慮として「年間上限」などの新たなセーフティネット機能が検討されており、負担と安心のバランスを取る制度設計が目指されています。

社会保険労務士としては、今後、社会保障審議会から公表される「とりまとめ」や、それを受けた関連法案の動向を継続的に注視することが不可欠です。制度改正はもはや既定路線と捉え、その具体的な内容が固まり次第、顧問先企業や従業員に迅速かつ正確な情報を提供することが求められます。

参考リンク