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厚労省『労働基準関係法制研究会』の報告書が公表
厚労省「労働基準関係法制研究会」の報告書が公表。ポイントを解説

厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」の報告書が公表されました。労働基準関係法制研究会は、
労働基準法をはじめとする労働関係法令の見直しや、社会・経済の変化に対応するための制度改革を検討するために設置された研究会です。特に、働き方の多様化に伴う新たな課題に対応するため、法律の適用範囲や規制内容を精査し、必要な改正の方向性を議論しています。
1. 研究会の主な検討事項
- 労働基準法における「労働者」概念の見直し(フリーランス・ギグワーカーなどの新しい働き方への対応)
- 労働時間制度の適用範囲や柔軟性の検討(テレワーク、裁量労働制、フレックスタイム制の見直し)
- 労使協定の適正化(過半数代表者の選出手続きの明確化など)
- 労働基準法全体の適用範囲や規制の見直し
2. 研究会の構成
大学教授、弁護士、労働関係の専門家、企業経営者、労働組合代表など、多様な立場の有識者が参加し、中立的な立場から労働基準法制の課題を整理し、提言を行います。
3. 研究会が労働基準法改正や新制度の導入につながるケース
労働基準関係法制研究会の議論が、実際に法改正や新制度の導入につながった例もあります。
(1)2018年の働き方改革関連法
背景 |
労働時間規制の強化や柔軟な働き方の実現に向けて、労働時間制度の見直しが議論された。 |
研究会の議論 |
高度プロフェッショナル制度の導入、時間外労働の上限規制、年5日の年次有給休暇の取得義務化などが検討された。 |
結果 |
2018年に「働き方改革関連法」として改正労働基準法が成立し、2019年以降順次施行。 |
(2)2024年4月からのトラック運転手の時間外労働上限規制(いわゆる「2024年問題」)
背景 |
長時間労働が常態化しているトラック運転手の健康確保と物流業界の労働環境改善が必要とされた。 |
研究会の議論 |
時間外労働の上限規制(年間960時間)を設定し、労働時間短縮を促進する方策が検討された。 |
結果 |
2024年4月からトラック運転手の時間外労働上限が施行され、物流業界の働き方改革が進められることに。 |
(3)過半数代表者の選出手続きの適正化(今後の法改正の可能性)
背景 |
過半数代表者の選出が不透明なケースが多く、使用者の意向が反映されやすいといった課題が指摘されていた。 |
研究会の議論 |
適正な選出手続きの確立、代表者の複数選出の可能性、任期の設定、選出後の研修や支援体制の整備などが提案された。 |
今後の可能性 |
労働政策審議会を経て、労働基準法の改正や厚生労働省のガイドライン改定につながる可能性がある。 |
4. 研究会の成果と影響
研究会の報告書は、最終的に厚生労働省の労働政策審議会や国会審議の参考資料として活用され、法改正や新制度の導入の基礎となることが多いです。
5. 今回の報告書の概要
A. 労働基準法における「労働者」について
- 働き方の多様化により、「労働者」性の判断が曖昧になっている現状を踏まえ、判断基準の見直しやガイドラインの策定、プラットフォームワーカーなど新しい働き方への対応、家事使用人の適用除外の見直しなどが議論されています。今後、専門家による継続的な研究体制の整備が求められています。
B. 労働基準法における「事業」について
- テレワークの普及など働く場所の変化を踏まえ、「事業」または「事業場」の概念を再検討する必要性が指摘されています。事業場単位の法適用を原則としつつ、企業単位や複数事業場単位での手続きを可能とする選択肢や、仮想空間における事業活動への対応なども検討課題とされています。
C. 労使コミュニケーションの在り方について
- 労働組合の組織率が低下する中で、過半数代表者の適正な選出と基盤強化が重要な課題とされています。過半数代表の定義や選出手続き、役割、使用者による情報提供や支援の明確化、複数人選出や任期制の導入などが検討されています。労働基準法における関連規定の整備も必要とされています。また、労使協定等の複数事業場での一括手続きについても議論されています。
D. 労働時間法制の具体的課題
- 時間外・休日労働時間の上限規制については、施行状況を注視しつつ、今後の見直しについて中長期的に議論する必要性が示唆されています。自動車運転者や医師など、特例が設けられている業種についても、一般の水準への適用に向けた検討が求められています。
- 企業による労働時間の情報開示を促進し、労働市場の調整機能を通じて労働環境を改善する方向性が示されています。
- テレワーク等の柔軟な働き方に対応するため、フレックスタイム制の見直しや、新たなみなし労働時間制の導入の可否について検討する必要性が議論されています。まずはフレックスタイム制の改善に取り組むべきとされています。
- 実労働時間規制が適用されない労働者(管理監督者等)に対する措置も検討課題とされています。
E. 労働からの解放に関する規制
- 定期的な休日の確保として、連続勤務の制限(13日超の連続勤務禁止など)や休日労働の制限について検討する必要性が示されています。
- 法定休日の特定を法律に規定することの検討が進められるべきとされています。
- 勤務間インターバル制度の導入促進と義務化に向けた検討の必要性が強調されています。
- 「つながらない権利」について、労使でルールを検討するための積極的な方策を検討する必要性が提言されています。
- 年次有給休暇の取得促進に向けた取り組みの継続が求められています。使用者の時季指定義務や時間単位年休の日数については、現時点での変更の必要性は低いとされています。
F. 割増賃金規制
- 割増賃金の趣旨・目的を踏まえ、現代の経済情勢や働き方の多様化の中で、割増賃金がどのように機能しているか、課題はないかについて、エビデンスに基づいた中長期的な検討が必要とされています。
- 副業・兼業の場合の割増賃金については、労働者の健康確保のための労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の支払いについては通算を要しないよう制度改正に取り組むことが考えられています。
以上です。