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10月分(12月支給)から年金額が変わるかも?
働きながら年金を受ける場合の在職定時改定とは?
〜社労士が押さえておきたいポイント〜

65歳以上で厚生年金に加入しながら働いている方は、10月分から年金額が増える可能性があります。
これまでは、退職した時や70歳に到達した時にしか年金額の見直しがされませんでしたが、2022年4月から「在職定時改定」という制度が導入され、毎年見直しが行われるようになりました。

具体的には、毎年9月1日時点で厚生年金の被保険者であると、10月分から年金額が自動的に増額される可能性があります。この制度は、働く高齢者の就労意欲を高めるために設けられたもので、退職を待たずに年金に反映されるのが大きな特徴です。

社労士としては、該当者がいるかの確認や、就労条件のチェックが重要です。顧問先には、制度の仕組みとメリットを分かりやすく伝えていきましょう。

1. 在職老齢年金制度の全体像

まず、「在職老齢年金制度」の基本を押さえましょう。

  • 在職老齢年金制度とは、老齢厚生年金を受給しながら被保険者(=厚生年金保険の適用事業所に働いている方)等として就労して給付を受けている場合に、年金額の一部または全部の支給を停止・調整する制度です。
  • その趣旨としては、高齢者の就労を支援する一方で、年金制度を支える側にも一定の公平性を確保するという観点があります。
  • 例えば、60歳台前半・65歳以上といった年齢帯で、賃金+年金額の合計が一定額を超えると、年金の支給停止もしくは支給減額が行われてきました。
  • 最近では、65歳以上で働く方が増えていること及び働き方の多様化を踏まえ、制度の見直しが進んでいます。

2. 在職定時改定とは何か

次に、本件の主題である「在職定時改定(在職定時決定)」について整理します。

【定義・概要】

  • 「在職定時改定」とは、在職中に年金を受給している方(具体的には65歳以上であって、厚生年金保険の被保険者である方)が、退職や70歳到達を待たずして、 毎年1回所定の時期に年金額を改定(増額)できる制度です。(日本年金機構)令和4年4月から在職定時改定制度が導入されました
  • 従来、年金額の改定(被保険者期間の反映など)は「退職時」や「70歳到達時」など限定的なタイミングでしたが、本制度により 「在職を続けながらの年金額見直し(増加)を早期に」反映できるようになりました。

【適用時期】

  • 具体的な改定時期として、毎年9月1日時点で被保険者であることが基準日 となり、改定はその翌月の10月分の年金から適用されます。

3. 制度導入の背景・目的

なぜこの制度が導入されたのか、その背景および目的も押さえておきましょう。

【背景】

  • 高齢期の就労意欲・就労機会が増加しており、働き続けたいという希望が高まっています。( 厚生労働省)在職老齢年金制度の見直しについて
  • 一方で、在職老齢年金制度の支給停止調整の仕組みが就労意欲をそぐという指摘もあり、「働きながら年金を受ける」ことへの障壁と捉えられる状況がありました。
  • また、年金制度としても、働く高齢者を支援する観点から「より就労に中立的な制度」とすることが望まれていました。(厚生労働省)年金制度の仕組みと考え方

【目的】

  • 在職中であっても、就労実績が早期に年金額に反映されることで、 働く意欲を支える こと。
  • 年金給付を受けながら就労する高齢者の経済基盤を充実させる こと。

4. 対象となる人・適用条件

社労士事務所として、どの顧問先社員・どのようなケースでこの制度が関わるのかを整理します。

【対象となる人】

  • 原則として、65歳以上70歳未満で老齢厚生年金を受給しており、かつ 厚生年金保険の被保険者(=適用事業所で働いて厚生年金加入継続)である方。

【適用条件・タイミング】

  • 基準日は毎年 9月1日です。9月1日時点で被保険者であれば、10月分の年金から改定が適用されます。
  • 9月1日時点で被保険者資格を喪失しておらず、適用事業所に加入していることが前提です。

5. 年金額の見直し(改定)タイミング・仕組み

在職定時改定における「どのように年金額が見直されるか」「どんな影響があるか」を説明します。

【改定のタイミング】

  • 毎年9月1日時点で被保険者の資格を有していれば、翌月の10月分から年金額が改定されます。
  • この時点で、まだ年金額に反映されていなかった厚生年金被保険者期間(加入期間)がある場合は、その期間を含めた再計算が行われます。

【年金額の影響(増額の可能性)】

  • 在職を継続し被保険者期間が伸びることで、年金の報酬比例部分(老齢厚生年金)において「期間が反映されていなかったもの」が反映されるため、年金額が増額となる可能性があります。
  • ただし、同時に「在職老齢年金制度」による年金の支給停止・調整対象となる可能性もあります。つまり、働き続けて賃金+年金の合計が一定を超えた場合には、年金額の減少(支給停止)への影響も出るため、注意が必要です。

6. 社労士事務所での支援視点

社労士が顧問先に対して提供できる支援/留意点を整理します。

【支援できる事項】

  • 顧問先に、65歳以上で働く社員が年金受給中かどうかの概況をヒアリングし、在職定時改定の対象となる可能性がある社員を把握。
  • 就業継続の観点から、被保険者資格を喪失しないような雇用契約・勤務条件を整えるよう助言。
  • 年金改定による増額・支給停止の影響をシミュレーションし、社員に対して「働き続けた場合」・「退職した場合」の比較を説明。
  • 年金受給者と就労継続との関係、つまり「退職を待たずに年金額が増える可能性あり」「しかし賃金+年金合計による支給停止リスクあり」という点も含めて、顧問先経営者および人事担当者に制度解説。

7. 顧問先へのアドバイス観点

以下のような観点で、顧問先(企業・社員双方)に対して説明・助言が可能です。

  • 「65歳以上で働く社員」がいる企業では、雇用継続・勤務時間・賃金構成を含めて、厚生年金保険の適用状況・年金受給状況を早めに確認することをおすすめします。
  • 社員に向けて「在職中でも年金額が増える可能性があります」「しかし、賃金と年金の合計による年金支給停止の対象になる可能性もあります」というバランスを説明する。
  • 年金受給前・受給後の雇用継続戦略を一緒に整理する。例えば「退職してから年金を受給する」「在職状態を継続して年金を受給しながら働く」の双方を比較し、社員にとって最適な働き方を整理。
  • 人事・総務担当者には、毎年9月1日を基準とする在職定時改定の対象把握リストを作成・管理するよう助言する。
  • また、退職や70歳到達時の改定(退職改定)との違いを明らかにしておき、誤解防止につなげましょう。

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