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令和7年度地域別最低賃金額改定の目安が公表されました!
令和7年度地域別最低賃金額改定の目安が公表されました!
令和7年度の地域別最低賃金額改定の目安が中央最低賃金審議会によって取りまとめられ、その内容が公表されました。今年の目安は、昭和53年度の目安制度開始以降で最高額の引き上げとなり、企業の賃金戦略において重要な意味を持つことが予想されます。社会保険労務士の皆様におかれましては、この改定内容とその背景を深く理解し、顧問先の企業経営を支援する上で多角的なアドバイスを提供することが、これまで以上に求められます。
令和7年度 地域別最低賃金額改定の目安 詳細
中央最低賃金審議会が取りまとめた目安は以下の通りです。
ランク |
引き上げ額 |
対象都府県・道府県 |
引き上げ率
(加重平均) |
Aランク |
63円 |
埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪 |
5.6% |
Bランク |
63円 |
北海道、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡 |
6.3% |
Cランク |
64円 |
青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄 |
6.7% |
この目安通りに引き上げが行われた場合、全国加重平均は1,118円となり、上昇額は63円(昨年度は51円)、引上げ率は6.0%となります。特筆すべきは、Cランクの引上げ額がA・Bランクを初めて上回った点です。これは、消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)の対前年上昇率がCランクで相対的に高いこと(Aランク3.8%、Bランク3.9%に対し、Cランク4.1%)、賃金改定状況調査結果における賃金上昇率がCランク、Bランク、Aランクの順に高くなっていること、およびB・Cランクの雇用情勢が相対的に良好であることなどが考慮された結果です。これにより、最高額に対する最低額の比率が81.8%から82.8%に上昇し、地域間格差の是正が図られることになります。
改定目安額決定の広範な背景:最低賃金法第9条第2項の3要素
今回の目安額決定には、最低賃金法で定められた以下の3要素が総合的に勘案されました。
1. 労働者の生計費:継続的な物価上昇への対応
- 消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)は、令和6年10月から令和7年6月までの期間で平均3.9%と、昨年に引き続き高い水準にあります。
- 特に食料やエネルギーの寄与度が全体の約7割を占め、伸びが顕著です。
- エンゲル係数も上昇傾向にあり、所得の低い勤労者世帯では27.5%と高い水準です。
- 最低賃金引き上げにより時間当たり賃金が上昇した労働者の多くが、その増加分を消費に回している調査結果も示されています。
2. 労働者の賃金:中小企業も含めた賃上げの継続・拡大
- 今年の春季賃上げ妥結状況では、連合の集計で全体平均5.25%、中小企業でも4.65%と、昨年を上回る高い水準が継続しています。これは、平成3年以来33年ぶりの5%超えを記録した昨年をさらに上回る結果です。
- 有期・短時間・契約等労働者の賃上げ額(時給)も加重平均で5.81%と、3年連続で5%台の高水準を維持しています。
- 厚生労働省の30人未満の企業を対象とした賃金改定状況調査結果では、賃金上昇率が2.5%(昨年の2.3%を上回り、平成14年以降最大)となっており、小規模企業においても賃上げの動きが確認されています。
- OECDデータでは、日本の最低賃金は賃金中央値の46.8%と、フランス(62.5%)やイギリス(61.1%)などの先進国と比較して低い水準にあることが指摘されています。
3. 通常の事業の賃金支払能力:改善傾向と二極化への対応
- 法人企業統計によると、経常利益は令和5年度に資本金1,000万円以上で11.3%増、1,000万円未満で28.8%増となり、売上高経常利益率も改善傾向にあります。
- 従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)も令和5年度全体で4.7%増加しており、改善傾向にあります。
- 一方で、付加価値額に占める人件費の割合である労働分配率は低下傾向にあり、令和5年度は65.1%です。資本金1,000万円未満の企業では80.0%と高いものの、これも低下しています。
- 中小企業における価格転嫁の状況は改善傾向にありますが、労務費の転嫁率(48.6%)は原材料費(54.5%)と比較して約6ポイント低い水準にあり、また、全く価格転嫁できなかった企業の割合は15.8%と、依然として二極分離の状態が続いています。
- 倒産件数は新型コロナウイルス流行下の低水準から3年連続で増加し、令和6年には10,006件に達しています。ただし、物価高倒産は前年同期比で減少しています。
- これらの状況から、景気や企業利益は改善傾向にあるものの、大企業と中小企業の間に依然として差があり、一部の中小企業・小規模事業者では賃上げ原資の確保が困難な状況にあると認識されています。
まとめ
令和7年度の地域別最低賃金額改定は、過去最高額の引き上げとなり、労働者の生計費を重視しつつ、賃上げのモメンタムを維持・拡大することを目指す強いメッセージです。一方で、中小企業・小規模事業者が直面する賃金支払能力の課題や価格転嫁の難しさも認識されており、政府への強力な支援策の要望が盛り込まれています。
社労士は、この複雑な状況下で、顧問先の企業が最低賃金改定に適切に対応し、持続的な成長を実現できるよう、賃金制度のコンプライアンス確保から、政府の各種助成金・支援策の活用、さらには価格転嫁や生産性向上への助言まで、多岐にわたる専門知識と実務能力を活かした総合的なサポートが求められます。顧問先との対話を深め、個々の企業の状況に応じたきめ細やかな支援を通じて、日本経済全体の賃上げと成長に貢献していくことが、社労士の重要な役割となるでしょう。
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