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「今後の人材開発政策の在り方に関する研究会報告書」が
公表されました!

日本の労働市場は、人口減少、高齢化、そしてAIやデジタル技術の急速な進展により、これまでにない大きな変革期を迎えています。企業には労働生産性の向上が、労働者には自律的なキャリア形成とスキルの向上が喫緊の課題として求められています。このような環境下で、厚生労働省は「今後の人材開発政策の在り方に関する研究会報告書」を公表し、新たな人材開発政策の方向性を示しました。本稿では、この報告書の内容:を踏まえ、主要な課題と政府が目指す「個別化」「共同・共有化」「見える化」の3つの視点について解説します。

主要な課題と現状

現在の日本の労働市場と人材開発を取り巻く環境には、以下のような複数の課題が見られます。

◆ 労働供給制約と多様な人材の活用

  • 日本の総人口は近年減少局面にあり、2070年には9,000万人を割り込み、高齢化率は39%に達すると推計されています。就業者数も2030年までは横ばいで推移し、その後減少に転じる見込みであり、就業者に占める60歳以上の割合が増加すると予測されています。
  • 女性や高齢者の労働参加は進んでいますが、非正規雇用労働者の増加が見られ、労働者が非正規雇用を選択する理由として「自分の都合の良い時間に働きたい」「家事・育児・介護と両立しやすいから」といった理由が多くなっています。
  • 求人は底堅く推移しており、新型コロナウイルス感染症拡大前から続く人材不足感は、特に中小企業で強い状況が継続しています。

◆ 低調な人材開発投資とDX推進の遅れ

  • 日本企業の人材開発投資(OJTを除くOFF-JTの研修費用)は、GDP比で国際的に見て低い水準にあり、近年さらに低下傾向にあることが指摘されています。
  • DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みも米国に比べて進んでおらず、特に従業員300人以下の中小企業で遅れが顕著です。企業がDXに取り組む上での課題としては、「DX・ITに関わる人材の不足」が企業規模を問わず多く挙げられ、従業員20人以下の企業では「予算の確保が難しい」が最も高くなっています。

◆ 人材育成の課題と離職率

  • 人材育成に「問題がある」とする事業所は8割弱にのぼり、その理由として「指導する人材の不足(57.1%)」や「人材を育成しても辞めてしまう(53.2%)」が上位を占めています。
  • 高校卒や大学卒の卒業後3年以内の離職率は微増傾向にあり、大学卒については直近15年間で最も高くなっています。
  • 一方で、離職率が低い事業所はOFF-JT実施率や計画的なOJT実施率が高く、人材開発の取り組みが人材確保や定着に繋がる可能性が示唆されています。

◆ 若年層のキャリア意識の変化

  • 若年層の間では「一つの企業に長く勤める方がよい」という一社志向が低下し、「自分の時間がもてて生活と両立できる」「できれば仕事はしたくない」といった仕事離れや柔軟な働き方を重視する志向が高まっています。
  • 多くの若者がキャリアプランを持たず、転職活動にあたって「特に何もしていない」と回答する割合が6割程度を占めるなど、情報収集やスキルアップが不十分な傾向が見られます。

人材開発政策の3つの「視点」

厚生労働省は、これからの人材開発政策を進める上で重要な3つの「視点」を提示しています。社会保険労務士の皆様は、これらの視点に沿った企業の取り組みを支援することで、その価値を一層高めることができます。

1.「見える化」の推進

【内容】
労働市場全体の職務・スキル・処遇・人材開発に関する情報の「見える化」を進め、個人の自律的なキャリア形成を支援します。
  • 具体的には、「職業情報提供サイト(job tag)」のより一層の充実、職業能力評価制度(技能検定、令和6年3月に創設された団体等検定、認定社内検定)の整備・活用促進、建設業界の「建設キャリアアップシステム」のような業界単位の取り組み支援、そして企業の人材開発に関する情報開示の検討などが挙げられます。
  • 企業は社内におけるスキルの「見える化」を図るために、社内版スキル標準の作成が必要とされており、その支援方策の整備が求められています。

2.「個別化」されたキャリア形成支援の充実

【内容】
個々の労働者の事情に合わせた人材開発(キャリア形成支援、能力開発支援)を重視します。
  • 特に、若年層におけるキャリアビジョンを持たない者の多さや、自己啓発における時間的制約・キャリア目標の不明確さといった課題に対応するため、キャリアプラン作成の伴走型支援、キャリアコンサルティングの機会提供、上司による1on1ミーティングの普及、社外キャリア相談環境の整備、教育訓練休暇制度の活用促進などが図られます。
  • また、キャリアコンサルタントの専門性を高め、知識や経験の可視化を進める取り組みも重要視されています。

3.「共同・共有化」による人材育成の促進

【内容】
産業や地域単位で複数の企業が連携し、人材開発に取り組むことを促します。
  • 特に、中小企業が抱える人材開発における課題(指導人材不足、代替要員確保の困難さ、単独でのOFF-JTの非効率性など)に対応するため、指導者、訓練設備、ノウハウの共有化、共通課題への対応策の共有などを図ります。
  • 認定職業訓練の活性化や、産業・地域単位での複数企業の連合体による人材育成の促進が挙げられます。これは、業界全体で人材を養成し、個別企業の利益にもつながる効果が期待されています。

まとめ

近年、AIやデジタル化の急速な進展により産業構造や働き方が大きく変化する中、人材開発政策は多くの課題に直面しています。こうした状況に対応するため、当研究会で、①個人や企業の状況に応じた「個別化」、②複数企業が連携して育成を行う「共同・共有化」、③職務やスキル、処遇などの情報開示による「見える化」という3つの視点を重視し、政策の方向性を議論が行われました。

今後は、この報告書を起点に、労働市場における人材開発の基盤整備を進めるとともに、個人が主体的にスキルを高め、企業が生産性向上と人材投資を両立させる持続的な成長を実現することが期待されると結んでいます。

関連リンク

【報告書(令和7年7月7日付)】
報告書概要&全文:厚生労働省「今後の人材開発政策の在り方に関する研究会報告書」
(報告書概要(269 KB)・全文(1.4 MB)が掲載された公表ページです)

【研究会専用ページ(過去開催分も含む)】
研究会概要・開催スケジュール
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