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障害年金に係る一連の報道を踏まえた調査報告書が公表されました!精神障...
障害年金に係る一連の報道を踏まえた調査報告書が公表されました!精神障害の不支給割合の増加が顕著に!
厚生労働省年金局は令和7年6月11日、障害年金に係る一連の報道を踏まえ、日本年金機構と連携のもと、「令和6年度の障害年金の認定状況についての調査報告書」を公表しました。本報告書は、日本年金機構と連携して障害年金の認定状況を把握する目的で実施されたものであり、社労士の実務において重要な示唆を含んでいます。本稿では、調査結果の概要と今後の対応策を踏まえ、実務への影響と展望を解説します。
1. 調査の概要と背景
調査は、以下の2つの方法を組み合わせて実施されました。
- 抽出調査:令和6年度に決定された障害年金の認定状況について、新規裁定1,000件、再認定10,000件を単純無作為抽出して集計。
- ヒアリング調査:日本年金機構職員や認定医への聞き取り調査。
特に、不支給(非該当)または支給停止となった事案(新規裁定130件、再認定105件)については、審査資料の個別確認が行われました。調査の背景には、令和7年4月の報道で取り上げられた「障害年金の不支給倍増」や「判断誘導の可能性」などの問題意識があります。
2. 令和6年度 認定状況の主要な変化
◆ 新規裁定の非該当割合の上昇
- 令和6年度の非該当割合は 13.0%(令和5年度:8.4%)。
- 令和元年度の12.4%とほぼ同水準で、過去最高レベルに近い。
- 精神障害の非該当割合は 12.1%(令和5年度:6.4%)と顕著に上昇。
◆ 精神障害における非該当要因
- 不支給事案の 75.3%が「目安※より下位等級に認定」されたケース。
※「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」で示されている診断書の記載項目のうち、「日常生活能力の程度」及び「日常生活能力の判定」の評価の平均を組み合わせたものが、どの障害等級に相当するかの目安。
- 令和5年度(44.7%)から大幅増加し、非該当割合上昇の要因となった。
◆ 再認定の支給停止割合
- 令和6年度は 1.0%(令和5年度:1.1%)で、概ね同水準。
3. 認定プロセスにおける課題と分析
◆ 組織的な指示の有無
- ヒアリングによると、障害年金センター長から、認定の根拠を明確にすべき等といった指摘はあったが、理事長やセンター長等が審査を厳しくすべきといった指示を行っていた等の事実は、確認できなかった。
- 認定医に関する文書は、ヒアリングによると、担当者間で引継等に使用。職員が担当する認定医は1~3名程度等であり、選択する余地はほとんどない旨の話があり、組織的に認定をコントロールする意図のものとは認められないが、認定の傾向に関することなど、一部に適切ではない記載内容も含まれていた。
◆ 認定のプロセスに問題がないか
- ヒアリングによると、診断書等に疑義があった場合は、医師等へ照会するなどの話があり、認定基準に定めるプロセスを逸脱している事実は確認できなかった。
◆ 個別の認定が適正に行われているか
- 審査書類に、判断の理由が明確に記載されているとはいえず、丁寧さに欠けるものが見受けられる。
- 理由付記文書も申請者にとって分かりにくい記載がある。
- 認定医の審査の参考となるよう、等級案も含め、事前確認票が作成されているが、障害等級の目安と、診断書等の内容(病状の経過、具体的な日常生活状況等)をもとに総合的に認定する仕組みの中では、職員による等級案の必要性は高くない。
- 令和6年度の不支給割合の上昇は、「障害等級の目安より下位等級に認定され不支給となっているケース」等が増えていることが寄与していると考えられる(44.7%(R5) → 75.3%(R6))。
- より丁寧な審査を行う観点から、障害年金センターに配置される常勤医師による確認を実施し、約1割が支給となった。
◆ 不支給見込み事案の再精査
- 令和7年3月の報道を踏まえ、精神障害の新規裁定のうち、その時点で認定医の審査過程で不支給と見込まれた審査中の事案について、1,155件のうち94件(約1割)が支給決定に変更。
◆ 今後の対応策
- 審査書類に丁寧に記載することの徹底
- 認定事例の作成・考慮要素の徹底
- 理由付記文書の改善
- 職員による等級案廃止(※)
- 今後の全ての不支給事案について複数の認定医による審査 ・ 過去の精神障害等の不支給等事案の点検
→令和6年度の不支給事案(障害認定基準上の「その他の疾患による障害」の基準に基づいて認定する障害を含む。)及び目安より下位等級の事案について、速やかに点検
4. 社労士実務への影響と今後の展望
- 審査厳格化の傾向:精神障害を中心に非該当が増加。申請書類の精緻な作成が一層重要に。
- 説明責任の強化:審査理由の明確化が進む中、相談対応ではより具体的な説明が必要。
- 記載内容の充実:ガイドライン要素を網羅的に記載することが実務の鍵となる。
- 今後の改善期待:厚労省は記載の丁寧化・判断理由の明確化を課題としており、今後の制度運用に反映される可能性がある。
まとめ
本報告書は、障害年金認定の現状を示すと同時に、今後の改善課題を浮き彫りにしています。厚労省は、このほか、①認定審査委員会に福祉職等の外部の者の参画、②障害年金センターの審査体制の見直し等を行い、それらの実施状況については、点検の進捗状況等とあわせ、随時、公表を行うとしています。社労士としては、申請支援において 詳細な記載 と 根拠の明確化 を徹底することが重要です。また、今後の制度変更や運用改善にも注視し、相談者への適切な情報提供を行うことが求められます。