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令和7年 年金制度改正法案の概要について

令和7年5月16日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が閣議決定され、第217回通常国会に提出されました。政府は今国会中の成立を目指しています。

今回の改正の趣旨は、社会経済の変化を踏まえ、働き方や男女の差等に中立的で、ライフスタイルや家族構成等の多様化に対応した年金制度を構築することにあります。これに加え、所得再分配機能の強化や私的年金制度の拡充等により、高齢期における生活の安定を図ることも目的とされています。 本改正法案における主な見直し内容は以下のとおりです。


  1. 被用者保険の適用拡大

    短時間労働者の厚生年金・健康保険への加入対象が拡大されます。

    • 賃金要件(月額8.8万円、年収換算約106万円)の撤廃:いわゆる「106万円の壁」として意識されている賃金要件が撤廃されます。これは法律の公布から3年以内の政令で定める日から施行されます。
    • 企業規模要件の段階的撤廃:現行の「従業員51人以上」という企業規模要件も段階的に撤廃されます。2027年10月から対象企業が拡大され、2035年10月には撤廃されることで、週20時間以上働く短時間労働者は、勤め先の事業所規模にかかわらず社会保険に加入することになります。
    • 個人事業所の適用拡大:常時5人以上を使用する個人事業所のうち、これまで非適用とされていた業種(農業、林業、漁業、宿泊業、飲食サービス業等)についても、被用者保険の適用事業所となります。これは2029年10月施行ですが、施行時に既に存在する事業所は経過措置として当面適用除外となります。
    • 適用拡大に伴う保険料負担の軽減のため、労使折半を超えて事業主が負担した保険料を国などが支援する特例的・時限的な経過措置(3年間)が設けられます。
  2. 在職老齢年金制度の見直し

    65歳以上の在職老齢年金について、支給停止となる収入基準額が引き上げられます。

    • 現行の月50万円(2024年度価格)から月62万円(同)に基準額が引き上げられます。これは2026年4月施行予定です。
    • 高齢者の働く意欲を後押しし、できるだけ就業調整が発生しない、働き方に中立的な仕組みとすることが狙いです。
  3. 遺族年金の見直し
    • 遺族厚生年金の男女差解消:遺族厚生年金において、男女間の支給要件や給付内容の差が解消されます。18歳未満の子がいない20歳~50代の配偶者は、男女ともに原則として5年間の有期給付の対象となり、現行制度で受給権がなかった60歳未満の男性も新たに支給対象となります。配慮が必要な場合は65歳まで給付が継続されるほか、有期給付加算や死亡分割による増額、収入要件の廃止といった措置が講じられます。既に受給権を持つ方や子のある配偶者などは現行制度が維持されます。2028年4月から20年かけて移行が進められます。
    • 子に支給する遺族基礎年金の見直し:子に支給される遺族基礎年金について、父母と生計を同じくしていることによる支給停止に係る規定が見直されます。これにより、子の選択によらない事情(親の再婚、収入超過、子の養子縁組など)に関わらず、子が遺族基礎年金を受給しやすくなります。
  4. 厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ

    厚生年金保険等の保険料や年金額の計算に用いる標準報酬月額の上限が段階的に引き上げられます。

    • 現行の65万円から、68万円、71万円を経て最終的に75万円まで引き上げられます。
    • これは2027年9月から段階的に施行されます。
    • 高所得者の負担能力に応じた保険料負担を求め、将来の年金額を充実させる観点からの見直しであり、上限額の引上げ対象となる者は、保険料と将来の年金額が増加します。
  5. 子に係る加算額の引上げと配偶者加給年金の見直し

    年金受給者が子を養育している場合の子に係る加算額が引き上げられます。現在受給している方も含めて、第2子までの年額234,800円、第3子以降の年額78,300円(2024年度価格)から、一律年額281,700円(同)に増額されます。また、老齢基礎年金のみの受給者など、加算の対象となる年金の種類も拡大されます。

    一方、老齢厚生年金の配偶者加給年金(年下の配偶者対象)は額が見直しされます。現行年額408,100円(2024年度価格)から年額367,200円(同)に減額されます。これは将来(2028年4月以降)に年金を受給し始める方が対象です。女性の社会進出や共働き世帯増加といった社会変化に対応するためのものです。これらの見直しは2028年4月施行予定です。

  6. 私的年金制度の見直し
    • 個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢の上限が、現行の65歳未満から70歳未満に引き上げられます。これは法律の公布から3年以内の政令で定める日から施行されます。
    • 企業型確定拠出年金(企業型DC)のマッチング拠出について、事業主掛金額を超える制限が撤廃され、加入者が拠出限度額を十分に活用できるようになります。公布から3年以内の政令で定める日から施行です。
    • 企業年金の運用の「見える化」として、厚生労働省が情報を集約し公表することが定められます。公布から5年以内の政令で定める日施行です。
  7. 脱退一時金制度の見直し
    • 再入国許可を受けて出国した外国人について、将来の年金受給に結びつけやすくする観点から、当該許可の有効期間内は脱退一時金の請求ができないようになります。公布から4年以内の政令で定める日施行です。
    • 在留外国人の滞在期間長期化を踏まえ、脱退一時金の支給上限が現行の5年から8年に引き上げられます(政令で措置予定)。
  8. その他

    障害年金等の保険料納付要件の特例措置(直近1年要件)が10年延長(令和18年4月1日まで)、国民年金の納付猶予制度の時限措置が5年延長(令和17年6月まで)、国民年金の高齢任意加入の対象追加、報酬比例部分のマクロ経済スライドによる給付調整の継続(次期財政検証の翌年度まで)、離婚時分割の請求期限の2年から5年への伸長などが盛り込まれています。

  9. 基礎年金の底上げに関する議論

    当初、厚生年金の積立金を活用した基礎年金の底上げ措置も検討されていましたが、厚生年金の給付水準の一時的な低下への懸念などから、今回の法案には盛り込まれませんでした。野党側は、これにより就職氷河期世代などの将来の年金水準が不十分になるとして反発しており、法案の修正を求めています。この点は今後の国会審議の大きな論点となる見通しです。

本法案は、多様化する働き方やライフスタイルに対応し、より多くの人々が年金制度の恩恵を受けられるようにするための重要な改正を含んでいますが、一部論点については今後の国会での議論が注目されます。

【参照元】

年金制度改正法案を国会に提出しました
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00017.html