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【社労士必見】2024年政策提言のポイント総まとめ
年金第3号・育児休業の要件緩和も

1. はじめに

全国社会保険労務士会連合会(以下、社労士連合会)は、毎年、労働・社会保険分野における現場の専門家としての知見をもとに、国に対して政策提言を行っています。これらの提言は、企業における労務管理の実情や課題を踏まえ、より実効性のある制度設計や運用改善を目指すものであり、政策立案において重要な役割を果たしています。

社労士連合会の政策提言は、少子高齢化や働き方の多様化といった社会環境の変化に対応しつつ、企業・働く人・行政それぞれにとって実行可能かつ持続可能な制度の構築を目指す姿勢が貫かれています。

本記事では、そうした政策提言の最新の内容とその背景について、分かりやすく整理してお届けします。

2. 最新の政策提言(2024年度)

2024年度の政策提言は、2025年3月13日に「人を大切にする企業と社会の実現に向けて」というテーマで公表されました。この提言では、労働者一人ひとりの尊厳と働きがいを重視し、多様な働き方やライフステージに寄り添う制度設計の必要性が強調されています。

特に注目されるポイントは以下のとおりです

◆ 主な提言項目

  • 国民年金第3号被保険者制度の見直し
    配偶者の扶養に入っている被保険者(いわゆる「第3号被保険者」)制度について、実態に即した制度改革が必要とされており、廃止も視野に入れた見直しが提言されています。
  • 育児・介護休業の取得要件の緩和
    現行の「引き続き1年以上雇用されていること」という取得要件を「6か月以上」に短縮することで、より柔軟な取得を可能にする制度改善が求められています。
  • 年金・手当の「毎月払い」への変更
    現在、隔月で支給されている年金や各種手当を、毎月支給に改めることで、生活設計のしやすさ向上を狙います。
  • ハローワークの求職登録のオンライン化
    対面を原則とする現在の求職登録手続きについて、オンラインで完結できるよう制度の柔軟化が提案されています。
  • 育成就労制度における外部監査の導入
    外国人労働者支援の信頼性確保のため、監理支援機関に対し労務管理の専門家(社労士等)による外部監査を義務付けることが提案されています。
  • 厚生年金資格喪失時の国民年金自動切替
    事業所退職後の手続き漏れによる未納問題を防ぐため、資格喪失時に国民年金への自動切替が行われる仕組みの整備が求められています。
  • 75歳到達時の健康保険資格自動喪失
    後期高齢者医療制度へのスムーズな移行を促すため、75歳到達時に健康保険資格が自動的に喪失する制度設計を提案しています。
これらの提言はいずれも、現場で労務管理に関わる社労士ならではの視点が反映されており、制度の「使いにくさ」や「現実とのズレ」に対する具体的な改善案として注目されています。

3. 過去の政策提言の振り返り

社労士連合会は、近年の急速な社会環境の変化に対応するため、制度面・運用面の課題に焦点を当てた政策提言を毎年公表しています。ここでは、2023年度および2022年度の提言内容を中心に、そのポイントを振り返ります。

◆ 2023年度(2024年3月6日公表)

テーマ:「多様な働き方の実現と働く人の安心確保に向けた制度整備」
  • 副業・兼業における労働時間の通算見直し
    複数の事業主で働く労働者に対して、労働時間を通算して割増賃金を支払う現行ルールは、柔軟な働き方の障害となることが指摘され、制度の見直しが提言されました。
  • 出生時育児休業・子の看護休暇の対象者拡大
    現行では対象外となっている祖父母についても取得可能とすることで、育児支援体制の拡充が図られました。
  • 特例措置対象事業場における週40時間制の統一
    一部の小規模事業場に残る週44時間制について、法定労働時間を40時間に統一することが提案されています。
  • フリーランスに対する労災保険特別加入制度の簡素化
    労災保険の特別加入制度について、手続きの簡便化や加入対象範囲の明確化が求められました。

◆ 2022年度(2023年3月6日公表)

テーマ:「変化に対応する労働・社会保険制度の再構築」
  • 産前産後・育児休業制度の充実
    産後パパ育休(出生時育児休業)の円滑な取得に向けた環境整備、育児休業給付の対象拡大などが提案されました。
  • 在宅勤務者の雇用保険適用手続き簡素化
    テレワークが定着する中、手続きの負担軽減と柔軟な対応が求められました。
  • 高齢者雇用の多様化への対応
    定年後再雇用者への無期転換ルールの適用除外の見直しなど、高年齢労働者の働きやすさを確保する制度の整備が提案されています。
過去の提言からも読み取れるように、社労士連合会は、現場のニーズを的確に反映した制度改革を一貫して提案しています。継続的な提言活動は、制度運用の実効性向上に貢献するとともに、社労士の社会的役割を再確認する機会にもなっています。

4. 社労士連合会の今後の取り組み

全国社会保険労務士会連合会は、今後も社会環境の変化や企業・労働者のニーズを踏まえた実効性のある政策提言を継続していく方針を明らかにしています。特に注力しているのが、「人的資本経営における社労士の専門性の発揮」です。

◆ 人的資本経営の推進に向けて

近年、企業の持続的成長を支える「人的資本」への注目が高まっており、政府による情報開示義務の強化も進んでいます。こうした流れの中で、社労士は「働きやすい職場環境の構築」や「公正な人事評価制度の設計」「労務リスクの管理」など、企業の人的資本経営を支援する専門家としての役割が一層重要になっています。 社労士連合会は、政策提言活動を通じて、
  • 法制度のギャップや現場の課題を的確に国に届け、
  • 制度の整備と企業実務との橋渡しを行う という機能を今後も強化していく方針です。

◆ デジタル化・グローバル化への対応

また、行政手続のデジタル化や外国人労働者の増加など、労働・社会保険分野の対応課題は複雑化しています。社労士連合会はこうした変化に対応するべく、社労士自身の専門性向上や制度改善の提案を並行して進めていくことを掲げています。 このように、社労士連合会は単なる制度の利用者としてではなく、制度をより良くする「仕掛け手」としての姿勢を明確にし、政策の形成・実行・見直しのサイクルに積極的に関与していく姿勢を打ち出しています。

5. まとめ

全国社会保険労務士会連合会による政策提言は、制度の現場運用に精通した社労士の立場から、具体的かつ実現可能性の高い改善策を提案するものです。2024年度の提言では、年金制度の見直しや育児・介護制度の柔軟化、デジタル化への対応など、時代の要請に応える重要なテーマが多く盛り込まれていました。

これらの提言は、単なる制度批評にとどまらず、 「現場と制度をつなぐ」社労士の専門性と使命を社会に広く発信する意義ある取り組みです。特に、人的資本経営の支援者としての役割が注目される中で、社労士の活動が国の制度づくりにも貢献していることは、今後の業務展開にも大きな示唆を与えてくれるでしょう。

社労士事務所としては、これらの政策提言を踏まえたアドバイスや情報提供を行うことで、 顧問先の信頼を高めるとともに、変化に対応できる組織づくりを支援していくことが求められます。引き続き、最新の政策動向に注目し、実務との橋渡し役としての役割を果たしていくことが重要です。