トップ 令和5年度 国民医療費 ― 医療費48兆円(人口一人当たり38万6,...

令和5年度 国民医療費
医療費48兆円(人口一人当たり38万6,700円)の現状を読み解く

私たちが病院で受ける診療や薬の処方、その費用の多くは「国民医療費」として集計されています。厚生労働省が発表した令和5年度の国民医療費は過去最高の48兆円を超え、1人あたりでは約39万円にのぼりました。高齢化の進行や医療技術の高度化が進むなか、医療費の増加は私たちの生活や社会の持続性にも深く関わっています。本記事では、最新の統計データをもとに、医療費の内訳や年齢・地域別の特徴をわかりやすく解説し、これからの医療のあり方を考える手がかりを探ります。社会保険労務士の皆様にとって業務への直接の関連性は薄いかもしれませんが、「国民医療費」の動向は、日本の医療制度や社会保障の現状を知る重要な指標で、保険料率の議論や制度改正の理解に不可欠な情報ですので、ぜひご一読いただき理解を深めてください。

1. 国民医療費とは?

「国民医療費」とは、日本国内で1年間に医療サービスに使われた総費用をまとめたものです。 病院・診療所・薬局などでの診療、薬の調剤、訪問看護などがすべて含まれます。 この統計は厚生労働省が毎年公表しており、医療制度や社会保障を理解する上で欠かせないデータです。

2. 国民医療費の総額と1人あたり医療費

【図表1】令和5年度(23年度) 国民医療費の概要

指標 数値 前年度比
総額 48兆915億円 +3.0%
1人あたり医療費 38万6,700円 +3.5%
GDP比 8.08% △0.15pt

医療費は前年比3%増の約48兆円で過去最高を更新し、10年前の平成25年度(2013年度)に比べて8兆円増加(20%増)しています。 一方、GDPに対する割合は微減しており、経済成長が医療費増を部分的に吸収しています。

3. 制度別の内訳 ― 高齢者医療の比重が拡大

【図表2】制度区分別 国民医療費(p.4)

区分 医療費(億円) 構成割合 前年比
医療保険等給付分 21兆5,147 44.7% +2.0%
後期高齢者医療給付分 17兆2,072 35.8% +4.6%
公費負担医療給付分 3兆4,594 7.2% △0.8%
患者等負担分 5兆9,101 12.3% +4.6%

特に「後期高齢者医療給付分(75歳以上対象)」が4.6%増と伸びが大きく、 高齢化による医療費の増大が鮮明です。

4. 財源構成 ― 保険料が医療費の半分を支える

【図表3】財源別 国民医療費(p.4)

区分 金額(億円) 構成割合
公費(国+地方) 18兆331 37.5%
保険料(事業主+被保険者) 24兆1,383 50.2%
その他(主に患者負担) 5兆9,201 12.3%

医療費の半分は保険料でまかなわれ、残りを国・地方の公費と患者自己負担が分担しています。 社会全体で医療費を支える「社会保険方式」の特徴がよく表れています。

5. 診療別構成 ― 医科診療が7割超、調剤費も増加

【図表4】診療種類別構成(p.5)

区分 医療費(億円) 構成割合 前年比
医科診療(入院+外来) 34兆5,498 71.8% +2.1%
歯科診療 3兆2,945 6.9% +2.1%
薬局調剤 8兆4,563 17.6% +5.8%

医科診療が7割以上を占める一方、薬局調剤医療費が急増しています。 薬の長期投与や高額薬剤の普及が背景にあります。

6. 年齢別構成 ― 65歳以上が全体の6割

【図表5】年齢階級別 医療費(p.6)

年齢層 医療費(億円) 構成割合 一人あたり(円)
0〜14歳 2兆7,688 5.8% 195,000
15〜44歳 5兆8,422 12.1% 148,000
45〜64歳 10兆5,998 22.0% 306,000
65歳以上 28兆8,806 60.1% 797,000

高齢者1人あたりの医療費は若年層の約3.6倍。 高齢者医療が全体の6割を超える構造は、今後も続くと見込まれます。

7. 傷病別構成 ― 循環器・がん・運動器疾患が上位

【図表6】主な傷病分類別 医療費(p.8)

傷病分類 医療費(億円) 構成割合
循環器系の疾患 6兆2,834 18.2%
新生物(腫瘍) 5兆1,994 15.0%
筋骨格系・結合組織の疾患 2兆7,581 8.0%
損傷・中毒など外因性疾患 2兆6,977 7.8%
呼吸器系の疾患 2兆5,979 7.5%

高齢者では循環器疾患(心疾患・脳血管疾患など)が最多。 一方、65歳未満ではがん(腫瘍)が最も多い結果となっています(p.8図3参照)。

8. 都道府県別の特徴 ― 地域差は最大15万円超

【図表7】都道府県別 医療費(p.9)

項目 金額
全国平均 38万6,700円
最高(高知県) 49万6,300円
最低(埼玉県) 34万2,500円

地域別では、高知・鹿児島・長崎など西日本で高く、関東圏で低い傾向があります。 医療資源の分布や高齢化率の違いが影響していると考えられます。

まとめ

日本の医療費は年々増加を続け、社会保障費の中でも大きな割合を占めています。 こうしたなか、国の財政を維持しつつ、必要な医療を公平に受けられる体制をどう保つかが課題です。その一例が、医療費の自己負担上限を定める「高額療養費制度」の見直し議論です。所得の高い世帯を中心に上限引き上げ案が検討されており、「誰がどこまで負担すべきか」という社会的合意形成が求められています。 医療費の適正化とは単なる削減ではなく、限られた財源を効果的に使うことを意味します。 予防医療や健康増進、デジタル化による医療の効率化など、質を保ちながら持続可能な仕組みを築くことが必要になってきています。国民一人ひとりが制度を理解することで、日本の医療保険制度の持続可能性が高まると思われます。

参考リンク