ニュースでよく耳にする「完全失業率」や「就業者数」。これらの数字が、日本の「今」の経済や社会の状態を映し出す、とても大切な指標であることをご存知でしたか? この記事では、毎月公表される労働力調査という統計調査の基本的な用語と、その最新結果を誰にでもわかるように、かみ砕いて解説します。この記事を読めば、日本の働き方や雇用のトレンドを読み解くための「モノサシ」を手に入れることができます。
労働力調査を理解するための最初のステップは、15歳以上の日本の人口が、たった3つのグループに分けられていることを知ることです。
日本の15歳以上の人々は、そのときの状態によって、必ず以下のいずれかに分類されます。
| 区分 | 定義 |
|---|---|
| 就業者 | 収入を伴う仕事をしている人。 |
| 完全失業者 | 仕事を探しているが、見つかっていない人。 |
| 非労働力人口 | 働く意思がなく、仕事も探していない人(例:学生、専業主婦・主夫、高齢者など)。 |
この3つのシンプルな区分が、全ての分析の土台となります。
この3つのグループのうち、「就業者」と「完全失業者」、つまり「働く意思のある人々」を合計したものを「労働力人口」と呼びます。
文字通り、日本の経済活動を支える「労働力」となる人々を指します。2025年9月時点の日本の労働力人口は7046万人でした。
「就業者」は、パートやアルバイトも含め、収入を得るために働いている人々のことです。このグループの動向は、景気の良し悪しを判断する上で非常に重要です。
2025年9月時点の就業者数は6863万人でした。これは、
となっており、日本の雇用が拡大傾向にあることを示す力強いデータと言えます。特筆すべきは、この増加分のほとんど(45万人)を女性が占めている点です。これは女性の労働市場への参加が活発化していることを示しています。
次に、就業者の中でも「雇われて働く人(雇用者)」に注目し、その働き方の内訳を見てみましょう。正規雇用と非正規雇用の動向を比較すると、現在のトレンドがより鮮明になります。
| 雇用形態 | 2025年9月の人数 | 前年同月との比較 |
|---|---|---|
| 正規の職員・従業員 | 3760万人 | 68万人の増加 |
| 非正規の職員・従業員 | 2091万人 | 16万人の減少 |
この表から読み取れるのは、「正規雇用が増加し、非正規雇用が減少している」という重要なトレンドです。正規雇用はこれで23か月連続の増加、非正規雇用は2か月連続の減少となっており、企業がより安定的で長期的な雇用を増やしている可能性を示唆しています。これは、雇用市場の質的な変化として注目すべき点です。
では、具体的にどのような分野で働く人が増えているのでしょうか?前年同月と比較して就業者が特に増加した産業は以下の通りです。
これらの分野で雇用の受け皿が広がっていることがわかります。このように雇用者数は増加していますが、一方で仕事を探している「完全失業者」はどのような状況なのでしょうか。
「完全失業者」とは、単に仕事をしていない人ではありません。「働く意思があり、仕事を探す活動をしているにもかかわらず、仕事に就けていない人」を指します。この「仕事を探している」という点が重要なポイントです。
2025年9月時点の完全失業者数は184万人でした。これは、前年の同じ月と比べて11万人の増加となっており、これで2か月連続の増加です。働いている人が増える一方で、仕事を探している人もわずかながら増えている状況です。この増加(11万人)も内訳を見ると、女性が9万人増と大半を占めており、労働市場に新たに参加したものの、まだ職を見つけられていない女性が増加している可能性がうかがえます。
なぜ人々は仕事を探しているのでしょうか。その理由の内訳を見ると、経済の別の側面が見えてきます。
「会社都合」と「自己都合」の離職が共に増えているのは、労働市場が二極化しつつも、全体として流動性が高まっている証拠です。一部に業績が厳しい企業がある一方で、人手不足を背景に、より良い条件を求めて転職する動きが活発化していると考えられます。これは、非労働力人口が労働市場に参入してきている(次のセクションで解説します)こととも整合性が取れる動きです。 最後に、働く人でも仕事を探している人でもない、「非労働力人口」について見てみましょう。このグループの動きも経済を理解する上で重要です。
「非労働力人口」は、働く意思がない、あるいは仕事を探していない人々のグループです。
具体的には、学業に専念する学生、家事に専念する専業主婦・主夫、リタイアした高齢者などがここに含まれます。 2025年9月時点の非労働力人口は3919万人で、
という結果でした。
このグループが継続的に減少していることは、何を意味するのでしょうか? これは、これまで労働市場に参加していなかった人々が、新たに仕事を探し始めたり(労働力人口へ移行)、実際に働き始めたりしている可能性を示しています。人手不足などを背景に、これまで働いていなかった層が労働市場に参入してきている、という社会の変化がある可能性が推察できます。 これまで3つのグループの人数を見てきましたが、これらの数字を使って計算される「就業率」や「完全失業率」といった重要な指標についても理解を深めましょう。
最後に、これまで見てきた数字を使って計算される、ニュースで頻繁に登場する2つの「率」を確認します。
就業率とは、「15歳以上人口」のうち、どれくらいの割合の人が「就業者」であるかを示す指標です。
特に働き盛りの世代である15~64歳の就業率が8割を超え、上昇を続けている点は、日本の労働市場の底堅さを示しています。
完全失業率は、経済ニュースで最も注目される指標の一つです。「労働力人口(働きたい人の合計)」のうち、どれくらいの割合の人が「完全失業者」であるかを示します。
この数値が低いほど、仕事を探している人が仕事を見つけやすい状況にあると解釈されます。重要なのは、この率が「労働力人口」を分母にしている点です。15歳以上人口全体を分母とする「就業率」とは計算の基準が異なるため、両者を合わせて見ることで、より立体的に市場を把握できます。
この記事で解説した3つのグループの動向をまとめると、2025年9月時点の日本の労働市場は以下のように要約できます。
これらのポイントから、現在の日本の労働市場は「働く人の数は増えているが、同時に仕事を探す人も少し増えている」という、活発ながらも変化の大きい局面にあると言えるでしょう。